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Dr’sメール 多枝病変を有する心筋梗塞への完全血行再建の検討

2019/09/20

岐阜ハートセンター 循環器内科 部長

神谷 宏樹先生

 

Complete Revscularization with Multivessel PCI for Myocardial Infarction

【多枝病変を有する心筋梗塞への完全血行再建の検討】

The New England Journal of Medicine Sep 1, 2019   ESC 2019 Late breaking clinical trial

 

背景:ST上昇型急性心筋梗塞責任血管へのPCIは、心血管死や心筋梗塞発症を減らすことが知られている。非責任血管へのPCIがさらにそれらのイベントを減らすのかは明らかにされていない。

方法:責任血管の血行再建に成功した多枝病変を有するST上昇型心筋梗塞患者を無作為に、血管造影上の有意狭窄をすべて血行再建する群と一切血行再建を追加しない群に割り振った。無作為化は、非責任血管へのPCIが意図されたタイミングで層別化した。主要エンドポイントは、心血管死もしくは心筋梗塞。副次エンドポイントは、心血管死、心筋梗塞、虚血に基づいた血行再建の複合とした。

結果:140施設、31カ国にまたがり、4041名の患者がエンロールされた。

平均3年間フォローし、主要エンドポイントは、完全血行再建群で、2016名中158名の7.8%であったのに対し、責任血管のみの血行再建群は、2025名中213名の10.5%とハザード比0.74 P=0.004であった。副次エンドポイントは、完全血行再建群で179名の8.9%であったのに対し、責任血管のみ血行再建群で339名の16.7%、ハザード比0.51 P<0.001であった。どちらのエンドポイントとも、完全血行再建の有効性は、血行再建のタイミングにかかわらず認められた。

結論:多枝病変を有するST上昇型心筋梗塞患者において、完全血行再建は、責任血管のみの血行再建に比べて、虚血に基づいた血行再建を含んだ複合エンドポイントばかりではなく、心血管死や新規心筋梗塞発症減少においても優位性が示された。

コメント:

今までも心筋梗塞患者への非責任血管を含んだ完全血行再建の意義は、観察研究や、無作為試験で検討されてきた。しかしながら、非責任血管への追加PCIを減らすメリットを含んだ複合エンドポイントでのみ、その優位性は示されるにとどまってきた。サンプルサイズや、患者選択バイアスなどによる限界により臨床的により重要な予後への効果は示すことができなかった。そのような中、今回のトライアルでは、完全血行再建のハードエンドポイントへの効果が示され、心血管死や新規心筋梗塞発症を実に26%もへらすことが示されたのは大変意義深い。この効果は、心筋梗塞後の心機能(駆出率が45%以上でも未満でも)により、差はない。デバイス進歩の影響もありそうだが、ステントポリマーの種類による影響を受けなかった。

OCTによる解析から、安定狭心症患者のプラーク性状と、心筋梗塞患者のプラーク性状が異なることが報告されていることとの関連が予想される。つまり、心筋梗塞患者では、偶然見つかった非責任血管のプラークも不安定プラークを多く含み、PCIによりプラークの安定化を図ることで、予後を大きく改善した可能性がある。裏をかえせば、現行のスタチンを中心としたプラーク管理ではまだ不十分であることの表れでもある。ハイリスク脂質異常患者へのPCSK9阻害薬を積極的に使用することで追加PCIを減らすことができるかもしれない。

一方、今回のトライアルでは、心原性ショックは除外していないにもかかわらず、一例も含まれていない。そのような患者での治療には適応されない。また、慢性腎臓病の患者も2.0%強にとどまっているため、注意が必要である。