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Dr’sメール 安定冠動脈疾患に心房細動を合併した患者に対する抗血栓療法

2019/10/04

安城更生病院

第1診療部長  救命救急センター長
内科代表部長  循環器内科代表部長
院長補佐

竹本 憲二先生

安定冠動脈疾患に心房細動を合併した患者に対する抗血栓療法

Antithrombotic Therapy for Atrial Fibrillation with Stable Coronary Disease

Satoshi Yasuda, M.D et al. AFIRE study

N Engl J Med 2019; 381:1103-1113 Sep 19, 2019

 

背景: 心房細動に安定冠動脈疾患を合併した患者に対する抗血栓療法の使用を評価するランダマイズドトライアルのデータは限定的である。

方法: 本研究は日本で実施された多施設オープンラベル試験である。対象患者は心房細動があり、1年以上前にPCIまたはCABGを受けているか、または血行再建を必要としない冠動脈疾患が血管造影で確認されている2,236例であった。リバーロキサバン単剤療法群とリバーロキサバン+抗血小板薬単剤の併用療法群に無作為に割り付けられた。主要有効性評価項目は、脳卒中・全身の塞栓症・心筋梗塞・血行再建を必要とする不安定狭心症・全死因死亡の複合であり、非劣性マージンを1.46として解析された。主要安全性評価項目は重大な出血であり、優越性について解析された。

結果: 本研究は、併用療法群で死亡率が上昇したため、早期に中止された。リバーロキサバン単剤療法は主要有効性評価項目において、併用療法に対して非劣性であった。イベント発生率は1患者年あたりそれぞれ4.14%5.75%であった(ハザード比0.7295%CI 0.550.95,非劣性のP0.001)。リバーロキサバン単剤療法は、主要安全性評価項目において併用療法に対し優越であり、イベント発生率は1患者年あたりそれぞれ1.62%2.76%であった(ハザード比 0.5995%CI 0.390.89,優越性のP0.01)。

結論: 心房細動に安定冠動脈疾患を合併した患者の抗血栓療法として、リバーキサバン単剤療法は併用療法に対し、有効性については非劣性、安全性については優越性を示した。

 

コメント 我々日本人にとって本試験の最大のポイントは、対象患者が日本人という点である。抗血栓療法に関する大規模臨床研究は多く存在するが、海外のものばかりである。多くの抗血栓剤の適用量が異なり、ヨーロッパ・アメリカを始めとした諸外国のガイドラインが異なる中、日本人を対象としたしっかりした研究が行われ、しっかりした結論が得られたことはとても重要である。今後、安定冠動脈疾患患者に対する抗血栓療法は抗凝固薬(非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬・・いわゆるDOAC)単剤で良いという流れができていくであろう。今後、他のDOACでも本試験と同様なデータが示されていくのであろうが、少なくとも本試験の内容をもとに早期にガイドラインの改訂をして頂きたいものである。

一方、心房細動を有する急性冠症候群患者に対する抗血栓療法に関してはまだまだ課題が残っている。やはり海外のデータは散見されるが、未だ結論のでないところである。多くの日本の施設では急性冠症候群に対して、世界に誇れるような優れた緊急治療を施行している。すなわち、休日・夜間を厭わない緊急カテーテル治療、血管内イメージングガイド(IVUS, OCT, OFDI)下の適切なステント留置などである。適切に留置されたステントはその後にイベントを起こすリスクは小さいわけであり、初期治療後の抗血栓療法を緩和できる可能性が高いと思われる。このあたりの日本人のエビデンスが明らかとなり、ガイドラインに反映されていくことを期待したい。