Dr’sメール 心不全患者に対する経カテーテル僧帽弁修復術
2019/04/11
【お詫びと訂正】ドクターズメール 表記誤りについて
いつもご覧いただきありがとうございます。
3月22日配信のドクターズメールのタイトルと内容に誤りがございました。
正:心不全患者に対する経カテーテル僧帽弁修復術
誤:脳卒中後の長期生存と機能予後.スウェーデンの脳卒中登録による縦断的観察研究
皆様の混乱を招き、ご迷惑おかけいたしましたことを
深くお詫び申し上げますとともに、訂正し再送させていただきます。
安城更生病院
循環器内科 救命救急センター長
循環器内科代表部長
竹本憲二先生
心不全患者に対する経カテーテル僧帽弁修復術
Transcatheter Mitral-Valve Repairin Patients with Heart Failure
COAPT Investigators N Engl J Med 2018; 379:2307-2318
Abstract
背景: 左心不全による僧帽弁逆流(MR)を有する心不全患者の予後は不良である。経カテーテル僧帽弁修復術は臨床予後を改善させる可能性がある。
方法: 米国とカナダの78施設で、中等症から重症または重症二次性MRを合併した心不全患者で、ガイドラインに従った薬物療法を最大投与量で施行しても症状が持続している患者を登録した。経カテーテル僧帽弁修復術+薬物療法を行う群(デバイス群)と薬物療法のみを行う群(対照群)に無作為に割り付けた。主要有効性エンドポイントは24ヵ月フォローアップ中の心不全入院とした。主要安全性エンドポイントは12ヵ月時点でのデバイス関連合併症がないこととし、合併症のなかった患者の割合を事前に規定した88.0%という目標と比較した。
結果: 614例のうち、302例がデバイス群、312例が対照群に割り付けられた。24ヵ月の心不全入院の年間発生率は、デバイス群では1患者年あたり35.8%であったのに対し、対照群では67.9%であった(HR 0.53,95%CI 0.40~0.70,P<0.001)。12ヵ月の時点でデバイス関連合併症がない割合は96.6%(95%信頼限界下限94.8%、目標との比較P<0.001)であった。24ヵ月以内の全死亡はデバイス群で29.1%、対照群で46.1%に発生した(HR 0.62,95% CI 0.46~0.82,P<0.001)。
結論: 中等症から重症または重症二次性MRを合併した心不全患者のうち、ガイドラインに従った薬物療法を最大投与量で施行しても症状が持続している患者において、経カテーテル僧帽弁修復術を施行した症例は、薬物療法のみを行った症例と比較して、24ヵ月フォローアップ中の心不全による入院率と全死亡率が低かった。デバイス関連合併症の割合は、事前に規定した安全性の閾値以内であった。
コメント
本論文のtranscatheter mitral-valve repair(経カテーテル僧帽弁修復術)とはMitraClipのことである。経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)に続く、カテーテルによる弁膜症治療の一つである。僧帽弁尖をクリップで挟みこんで、僧帽弁逆流を制御するというコンセプトのものである。現在米国においては、MitraClipは僧帽弁逸脱などといった器質的MRへの治療適応は認められているが、機能性MRへの適応は認められていない。その米国にて二次性(=機能性)MR患者が多く含まれた本試験が行われ、本デバイスの有効性が確認された意義は大きい。こういったデータを元に米国でのMitraClipの適応が広がっていけば、日本にも少しずつ前向きな影響が及んでくるものと思われる。日本での適応は「最新のガイドラインに準じた十分な内科的治療を行っているにもかかわらず心不全症状を有する高度僧帽弁閉鎖不全患者・・」と、一次性・二次性を問わない形となっている。ただし現状では、TAVIを多く行っている施設で、少しずつ始まっているにすぎない。本試験を追い風となって、この治療の認知度が上がり、日本を含めた全世界的にこの治療が広まっていくことが期待される。そうすれば新たに低侵襲なMR治療の選択肢が増えることとなり、患者側と医療者側の双方に非常に有益となろう。