Dr’sメール 中国武漢における2019年新型コロナウィルス感染症患者の臨床的特徴
2020/02/07
聖霊病院
第三内科部長 循環器内科一般
丹羽 統子先生
中国武漢における2019年新型コロナウィルス感染症患者の臨床的特徴
Lancet. Jan 24, 2020 Online first. doi.org/10.1016/S0140-6736(20) 30183-5
Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China.
C Huang, Y Wang, Xi Li, et al
背景:最近中国武漢で集団発生した肺炎は新規のβコロナウィルス“2019年新規コロナウィルス(2019-nCoV)”によって引き起こされたものである。同肺炎患者の疫学的、臨床的、検査、放射線学的な特徴と治療、臨床的転帰をここに報告する。
方法:2019- nCoV感染が疑われた患者は全て武漢の指定病院に入院した。リアルタイムRT-PCRで2019- nCoV感染が確定された患者から前向きデータをとって解析した。研究者は患者とその家族に直接連絡をとって疫学情報と症状を確認した。転帰に関しては集中治療室入室者と非入室者間の比較も行った。
結果:2020年1月2日までに入院した患者41人は2019- nCoV感染であることが検査で確定された。多くは男性(30人 (73%))で併存疾患のあるものは半分以下(13人(32%)):糖尿病(8人(20%))、高血圧症(6人(15%))、心血管疾患(6人(15%))であった。年齢の中央値は49.0歳(四分位範囲(IQR) 41.0-58.0)で、27人(66%)が華南海鮮市場に出入りしていた。家族内感染も1件確認された。発症時の一般的な症状は発熱(22人(98%))、咳嗽(31人(76%))、筋肉痛や疲労感(18人(44%))で、他には痰(39人(28%))、頭痛(3人(8%))、血痰(2人(5%))、下痢(1人(3%))がみられた。呼吸困難は22人(55%)に生じ,発症から症状出現までの期間(中間値)は8.0日(IQR 41.0-58.0)だった。26人(63%)にリンパ球減少があり、41人全員に肺炎がみられ胸部CTにて異常所見を認めた。合併症に関しては急性呼吸促迫症候群(ARDS)(12人(29%))、RNA血症(6人(15%))、急性心筋障害(5人(12%))、二次感染(4人(10%))がみられた。13人(32%)がICUに入室し6人(15%)が死亡した。ICU非入室者と比べて、ICU入室者はIL-2,IL-7, IL-10, GSCF, IP10, MCP1, MIP1A, and TNFαの値が高値であった。
解釈:2019-nCoV 感染は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス (SARS-CoV) に似た重症呼吸器疾患を引き起こし、ICU入室と高い死亡率に関連していた。起源、疫学、ヒト伝播の期間、および疾患の臨床スペクトラムを明らかにするには更なる研究が必要である。
コメント
中国・武漢に端を発した2019-nCoV感染症はここ数週間急速な勢いで拡大し中国本土のみならず日本を初めとしたアジア諸国や欧州、北米でも感染者が報告され、今や国際的に公衆衛生対策が求められる緊急事態となっている(WHO)。
本論文他において患者の臨床像が明らかにされ、感染当初は熱がみられないことがある、発症時は症状が軽く1週間くらい経ってから増悪すること、重症例においては8-9日目に呼吸困難やARDSの合併がみられるといった典型的経過が示されている。ただ感染者のほとんどは熱や乾性咳嗽など軽い症状で経過すること、無症候性感染者の存在も確認されており、重症化するのは約20%、死亡率は約2%程度と推察されている。検体検査では白血球(リンパ球)減少、ASTの軽度上昇がみられること、CRPの上昇は軽度(5mg/dl程度)であり、典型的なCT画像では両側性、複数にまたがる肺葉-亜区域浸潤影(ICU入室者)、スリガラス様陰影(非ICU患者)が観察されると報告されている。
2019-nCoV感染症に対して有効な薬物療法は確立しておらず、武漢の指定病院では経験的な抗菌薬と(インフルエンザシーズンと重なっていたため)インフルエンザ治療薬(オセルタミビル)が投与されていた。同じβコロナウィルス感染症であるSARS-CoV患者に対するHIV治療薬(ロピナビルとリトナビルの併用療法)が実質的な臨床効果を認めた研究結果があることから、2019-nCoV感染症に対するHIV治療薬の効果,安全性を評価するための無作為化対照試験が既に開始されている。先日タイから重症の2019-nCoV感染者に対して同HIV治療薬をオセルタミビルと組み合わせて用いたところ、48時間以内に症状が改善しウィルス検査も陰性化した一例報告があった。抗インフルエンザ薬、抗HIV薬に症状改善効果を期待できる可能性があり、重症化抑制効果が望まれるところである。
聖霊病院 内科 丹羽統子