Dr’sメール アダプティブDBSはパーキンソン病患者のレボドパ誘発性副作用をコントロールする
2020/05/11
順天堂大学大学院
医学研究科
運動障害疾患病態研究・治療 講座 先任准教授 脳神経外 科准教授
梅村 淳先生
アダプティブDBSはパーキンソン病患者のレボドパ誘発性副作用をコントロールする
Mov Disord 32: 828-829, 2017
Adaptive Deep Brain Stimulation Controls Levodopa-Induced Side Effects in Parkinsonian Patients.
Rosa M, et al
アダプティブ脳深部刺激療法(aDBS)が従来のコンスタントDBS(cDBS)に比べて有用な可能性があることは既にいくつかの報告により明らかとなっている。aDBSはパーキンソン病(PD)患者の視床下核(STN)のβ帯域のneuronal oscillationを解析することにより患者の臨床症状を評価して刺激パラメータを適応させることでより良い運動症状の改善を提供する。しかしaDBSはこれまで長時間の生体内での刺激状態について体系的に評価されていない。今回我々は自由に動くことができるPD患者において2時間にわたりレボドパ投与の併用にも焦点をあてて片側aDBSの効果を評価した。
10例のSTN DBSを受けた患者にプロトタイプのウエアラブルなDBS装置を使用してaDBSとcDBSの効果を調べた。いずれもベースラインとして刺激オフ/薬剤オフ状態で評価を行い、その後2時間にわたり順次刺激オン、薬剤オンとしてUPDRSIII運動スコアおよびジスキネジアスコア(UDysRS)を評価した。またエネルギー放出量(TEED)ならびに有害事象についても評価した。
刺激オフ/薬剤オフ状態では両群の運動スコアに差は無かった。刺激オン/薬剤オン状態では両群とも十分な運動スコアの改善を認めたが有意差は無かった。一方、ジスキネジアに対する効果はaDBSの方がcDBSに比べて有意に良好であった(p<0.05)。また、エネルギー消費についてはaDBSの方が有意に少なかった(p<0.005)。両群とも明かな有害事象は認めなかった。
今回の結果はaDBSが実臨床で同時に使用されるレボドパによる副作用も軽減することを示した。
【コメント】
PDに対する視床下核(STN)DBSは薬物療法による運動合併症(ウエアリングオフ、ジスキネジア)に対する治療として広く行われている。STN-DBSはオフ症状を改善するとともに薬剤(レボドパ)服用量を減少させることで安定した状態をもたらすが、薬剤を完全に中止できるわけではないので時にレボドパ誘発性のジスキネジアのコントロールが難しい症例が存在する。
最近PDの病態としてβ-oscillationなどの異常神経活動が注目されている。それに対してDBS電極から局所フィールド電位を記録してこうした異常活動が検出されたときだけ効率的に刺激を行う(adaptive DBS)ことが可能なデバイスが開発され、Medtronic社より世界に先駆けて本邦で年内に上市予定になっている。その効果としてはこれまでと同様のオフ症状の底上げができるだけでなく、レボドパによるジスキネジア出現時には刺激をストップしてジスキネジアを軽減する効果も期待される。さらに常に刺激が出ているわけではないのでバッテリー寿命の延長も期待できる。本論文はaDBS開発段階での臨床試験の結果でやや古い論文ではあるが、近日上市される植込み型aDBSデバイスの可能性について貴重なデータを示している。