Dr’sメール グルココルチコイド抵抗性の急性移植片対宿主病(GVHD)に対するルキソリチニブ
2020/05/27
名古屋第二赤十字病院
血液・腫瘍内科
内田 俊樹先生
グルココルチコイド抵抗性の急性移植片対宿主病(GVHD)に対するルキソリチニブ
Ruxolitinib for Glucocorticoid-Refractory Acute Graft-versus-Host Disease
Zeiser R, et al.
N Engl J Med 2020; 382: 1800-10.
背景:急性GVHDは、全ての患者が標準的なグルココルチコイド治療に反応するわけではなく、依然として同種幹細胞移植の主な限界となっている。
方法:同種幹細胞移植後にグルココルチコイド抵抗性の急性GVHDを有する12歳以上の患者において、ルキソリチニブ経口投与と研究者が選択した治療の有効性と安全性を比較する、多施設、ランダム化、非盲検第3相試験が行われた。前者は10mgを1日2回経口投与、後者は9種類の日常的な治療リストから選択された。主要評価項目はday 28時点での全奏効(完全奏効+部分奏効)であった。主たる副次的評価項目はday 56時点での持続的な完全奏効であった。
結果:309例がランダム化され、154例はルキソリチニブ群に155例はコントロール群に割り付けられた。Day 28時点での全奏効およびDay 56時点での完全奏効は、ともにルキソリチニブ群でコントロール群より高かった(62%対39%、p<0.001および40%対22%、p<0.001)。推定される6ヶ月時点での奏効喪失の累積頻度は、ルキソリチニブ群で10%、コントロール群で39%であった。Failure-free survival中央値はルキソリチニブ群でコントロール群に比し大幅に延長していた(5.0ヶ月対1.0ヶ月)。全生存期間中央値はルキソリチニブ群で11.1ヶ月、コントロール群で6.5ヶ月であった。Day 28までの最も高頻度の有害事象は、血小板減少(33%対18%)、貧血(30%対28%)、サイトメガロウイルス感染(26%対21%)であった。
結論:ルキソリチニブ治療は有効性において有意な改善をもたらした。最も高頻度の毒性である血小板減少症は、コントロール治療よりも高頻度に認められた。
コメント:
難治性造血器疾患に対し根治を目指して行われる同種幹細胞移植は、減弱した前処置レジメンの使用や幹細胞ソースの多様化により移植可能な患者対象が拡大し、世界中で益々増加傾向である。同種幹細胞移植の主な限界は、ドナーT細胞(移植片)が患者の多臓器組織(宿主)を攻撃する状態である急性移植片対宿主病(GVHD)である。標準的な予防治療にもかかわらず、GVHDは同種幹細胞移植患者の約50%で発症し、移植による死亡原因のかなりを占める。
急性GVHDに対し最初に選択される標準的治療は全身的な高用量グルココルチコイドである。急性GVHDの重症度により30%〜60%の患者に奏効が得られるが、一方でQOL低下や易感染など、臨床的に問題となる副作用を引き起こす。グルココルチコイド抵抗性の急性GVHD患者に対する治療はコンセンサスが得られておらず、予後は未だに不良である。そしてこの30年で急性GVHDに対する一次あるいは二次治療として新たに承認された薬剤はない。
このような行き詰まった状況で、グルココルチコイド抵抗性の急性GVHDに対するルキソリチニブの評価が行われた。JAK-STATシグナル経路は、急性GVHDでの免疫細胞の活性化や組織の炎症において重要な役割を果たしている。急性GVHDに関連した組織傷害は炎症性サイトカインにより生じ、その影響の一部をJAKが仲介している。ルキソリチニブは経口のJAK1およびJAK2選択的な阻害剤であり、前臨床モデルでは移植片対白血病効果を維持しつつ、in vivoでGVHDの発現頻度や重症度を軽減することが示されている。
このランダム化第3相試験(REACH2)では、ルキソリチニブとbest available careとの、有効性と安全性が比較された。その結果、ルキソリチニブ治療は有効性において有意な改善をもたらした。ルキソリチニブは骨髄線維症や真性多血症に対し既に承認され(商品名ジャカビ®)広く使用されている薬剤であるが、今回認められた有害事象は日常臨床で経験する内容であり、安全性についても大きな問題はなさそうである。
急性GVHD治療で苦しむ患者にとって強い味方となる薬剤が新たに増え、同種移植の成績がより改善する事が期待される。
名古屋第二赤十字病院 血液・腫瘍内科 内田俊樹