Dr’sメール パーキンソン病におけるレボドパ不応性のすくみ足に対する黒質網様部への低頻度および視床下核への高頻度同時刺激:予備研究
2019/05/09
順天堂大学大学院
医学研究科
動障害疾患病態研究・治療 講座 先任准教授 脳神経外 科准教授
梅村 淳先生
パーキンソン病におけるレボドパ不応性のすくみ足に対する黒質網様部への低頻度および視床下核への高頻度同時刺激:予備研究
Parkinsonism Relat Disord. 2018 Sep 5. pii: S1353-8020(18)30393-6. doi: 10.1016/j.parkreldis.2018.09.008. [Epub ahead of print]
Simultaneous low-frequency deep brain stimulation of the substantia nigra pars reticulata and high-frequency stimulation of the subthalamic nucleus to treat levodopa unresponsive freezing of gait in Parkinson’s disease: A pilot study.
Valldeoriola F, et al
背景:実験的な研究によれば、黒質網様部(SNr)に対する低頻度(63Hz)の脳深部刺激(DBS)はパーキンソン病(PD)における薬剤抵抗性の歩行障害に対して有用であることが示唆されている。SNrニューロンは歩行調整システムにおいて高頻度(HF)ペースメーカーとして作用する可能性がある。近年PDにおいてドパミン作動性薬剤で十分な効果が得られない歩行障害を治療しうる特定の治療は無い。
目的:今回の研究の目的は、通常の高頻度視床下核(STN)刺激に低頻度SNr刺激を加えることが、高頻度STN刺激のみあるいは低頻度SNr刺激に比べてレボドパ不応性のPDの歩行障害を臨床的に改善させるのに有効かどうかを調べることである。
方法:患者に対して低頻度SNr刺激のみまたは高頻度STN刺激のみまたは両者の同時刺激を行い、クロスオーバー試験により効果を検証した。刺激部位をランダムに選択し、3か月後にそれを知らされていない検査者が評価した。評価項目は、すくみ足質問票、Tinettiバランス・歩行評価ツール、統一PD評価スケール(UPDRS)である。
結果:6例の患者(平均年齢59.1才、罹病期間16.1年)で試験を行った。全例で症状の日内変動、ジスキネジアを認めていた。最良の結果は4例では低頻度SNr・高頻度STN同時刺激で得られ(その後3年以上この刺激を継続している)、2例では高頻度STN刺激で得られた。SNr刺激のみではどの患者においても同時刺激あるいはSTN刺激に優る結果は得られなかった。
結論:今回の予備的なケースシリーズにおいては、低頻度SNr・高頻度STN同時刺激、および高頻度STN刺激はPDの歩行障害を改善させた。この治療オプションの有効性を調査するために多施設共同研究が必要である。
コメント
薬剤のみでコントロール困難なPDの運動症状に対して高頻度STN刺激は非常に有効な治療法であるが、すくみ足などのドパ不応性の歩行障害に対する効果は乏しく、PDに対するニューロモデュレーション治療における今後の課題となっている。これまでの実験的な研究では、PDの薬剤抵抗性の歩行障害に対するSNrに対する低頻度刺激の効果が示唆されていた。しかし従来のDBSシステムでは1本のDBSリードでSTNとSNrを異なった刺激頻度で刺激することは不可能であった。近年Boston Scientific社から発売されたVercise DBSシステムでは、複数の独立した電源から電流を供給するmultiple independent current control (MICC) technologyにより、1本のDBSリード内の異なった刺激コンタクトにおいて異なった刺激周波数の設定が可能となった。本論文ではこの新たなDBSシステムを使用してPDの歩行障害に対する低頻度SNr・高頻度STN同時刺激の効果を検証し、その有用性を示唆している。まだ症例数が6例と少なく今後さらに大規模なスタディが必要であるが、今後はこうした治療可能性を考慮して手術時にDBSリードをSTN内のみにとどめず、意図的にSNr内まで挿入することも考慮すべきであろう。