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Dr’sメール スマートウォッチによる心房細動の同定

2020/03/06

岐阜ハートセンター 循環器内科 医長
祖父江 嘉洋先生

【スマートウォッチによる心房細動の同定】

Large-Scale Assessment of a Smartwatch to Identify Atrial Fibrillation

Marco V. Perez, M.D., Kenneth W. Mahaffey, M.D., Haley Hedlin, Ph.D.,
John S. Rumsfeld, M.D., Ph.D., Ariadna Garcia, M.S., Todd Ferris, M.D.,
Vidhya Balasubramanian, M.S., Andrea M. Russo, M.D., Amol Rajmane, M.D.,
Lauren Cheung, M.D., Grace Hung, M.S., Justin Lee, M.P.H., Peter Kowey, M.D.,
Nisha Talati, M.B.A., Divya Nag, Santosh E. Gummidipundi, M.S.,
Alexis Beatty, M.D., M.A.S., Mellanie True Hills, B.S., Sumbul Desai, M.D.,
Christopher B. Granger, M.D., Manisha Desai, Ph.D., and
Mintu P. Turakhia, M.D., M.A.S., for the Apple Heart Study Investigators*
N Engl J Med 2019;381:1909-17

【背景】
装着可能な光学センサー機器は不整脈の検出を可能とするが、光学センサーを搭載したスマートウォッチとアプリケーションの組み合わせで心房細動を特定できるかはこれまで明らかにされていない。

【方法】
本研究ではこれまでに心房細動の既往がなく(自己申告)、アップル製のスマートウォッチとスマートフォンを所有している22歳以上を対象とした。試験参加への同意を得た参加者に、App Storeからアプリケーションをダウンロードしてもらい、不整脈のモニタリングを行った。
 スマートウォッチベースの不整脈通知に関するアルゴリズムにて、心房細動の可能性があると識別した場合、遠隔診療が開始となり、その際、対象参加者にはECGパッチを郵送して最長7日間装着し、さらなる精査をおこなった。さらにその後、不整脈通知の90日後と試験終了時に評価を行った。
 研究目的は、不整脈通知を受けた参加者のうちECGパッチで心房細動が認められる割合を評価し、脈拍間隔不整の陽性適中率(標的信頼区間0.10)を推定することとした。

【結果】
8か月以上で41万9,297例を登録し、モニタリング期間中央値は117日であった。その間に2,161例(0.52%)が不整脈通知を受け取り、ECGパッチは、通知をしてから平均13日後に装着された。解析可能データを含むECGパッチデータが返信された450例中、34%(97.5%信頼区間[CI]:29~39%)で心房細動が認められた。また65歳以上の参加者についてみると、その割合は35%(97.5%CI:27~43%)という結果であった。
 不整脈通知を受け取った参加者において、その後に不整脈通知とECGによる心房細動が同時に観察される陽性適中率は、0.84(95%CI:0.76~0.92)だった。不整タコグラムとECGで心房細動が同時に観察される陽性適中率は、0.71(97.5%CI:0.69~0.74)だった。
 不整脈通知から90日後の調査で回答(メールで返信)した1,376例のうち、57%が同試験の外部の医療者とコンタクトをとっていた。
 重篤なアプリ関連有害事象は報告されなかった。

【結語】
スマートウォッチとスマートフォンのアプリケーションを用いたモニタリングで不整脈が検出通知されたのは約0.52%と低率であったが、そのうち心電図(ECG)パッチを郵送し遠隔モニタリング診療を行った結果、その後に34%で心房細動が認められた。スマートウォッチの不整脈通知とECGパッチによる心房細動が同時に観察された割合(陽性適中率)は84%だった。
本研究はサイトレス(被験者の受診を必要としない)のプラグマティック試験デザインであり、装置使用者の自己評価によるアウトカムやアドヒアランスが大規模プラグマティック試験として確実にできることを示した。

【コメント】
心房細動(AF)による心原性脳梗塞は予後不良であり、その同定は重要である。しかしAF発作は本人の自覚症状時のみならず、多くは無症候であることが報告されており(Israel CW, et al. J Am Coll Cardiol ; 43: 47: 2004)、不幸にも脳梗塞発症時に初めて同定されることがある。心原性脳梗塞は生命予後不良に加え、ADLおよびQOL低下を引き起こし、社会的問題でもあるため、早期に発見することは重要である。
これまでは最長でも14日間のホルター心電図での評価であり、この間に発作がない場合、同定できず、抗凝固薬開始がおこなわれなかった。しかし近年、植込み型心臓モニター(ICM; insertable cardiac monitor)による長期間(3~4年間)のモニターにより塞栓源不明の脳梗塞(ESUS; Embolic Stroke of Underdetermined Source)患者において従来のホルター心電図での評価より有意にAFが同定されることが報告され(Tommaso Sanna, et al. N Engl J Med; 370: 2478-86: 2014)、長期間の心拍管理が必要と考えられている。ただICMは低侵襲とはいえ、植込みが必要という点を考慮すると、容易かつ非侵襲的に管理がおこなえるデバイスが必要であった。
現代社会においてほぼ1人に1台は有しているスマートフォンおよびアプリケーションを用いた本研究は今後の予防医療および日常診療を予見されるものと思われる。結語で述べられているように、病院を受診せずに診断され、精査・加療が進む時代がそこまで来ていると思われる。