Dr’sメール 前向き二十盲検多施設共同パイロット研究:急性心不全へのエンパグリフロジンの効果
2020/03/19
岐阜ハートセンター 循環器内科 部長
神谷 宏樹先生
Randomized, double-blind, placebo-controlled, multicentre pilot study on the effects of empagliflozin on clinical outcomes in patients with acute decompensated heart failure (EMPA-RESPONSE-AHF)【前向き二十盲検多施設共同パイロット研究:急性心不全へのエンパグリフロジンの効果】
European Journal of Heart Failure January 15, 2020
目的:SGLT2阻害薬は、慢性心不全患者に対し、死亡や心不全入院のリスクを減らすことが知られている。しかしながら、急性心不全患者への安全性や臨床効果は明らかになっていない。
方法・結果:前向き二十盲検多施設共同研究では、糖尿病、非糖尿病患者80名に対し、エンパグリフロジン10㎎/日あるいは、プラセボ薬を30日間投与した。
1次エンドポイントは、呼吸困難感に対するビジュアルアナログスケール(VASスコア)、利尿反応、NT-proBNPの変化、入院期間を評価した。
2次エンドポイントでは、臨床効果に加え安全性を評価した。
患者の平均年齢は76歳で女性は33%、47%は初発の心不全患者であった。平均のproBNPは5236pg/ml。両群間でVASスコア、利尿反応、NT-proBNPの変化、入院期間に差を認めなかった。入院中の心不全増悪や、60日以内の心不全再入院や死亡の複合イベントは、エンパグリフロジンは有意に抑制した。また4日間の尿量はエンパグリフロジン投与により増加していた。エンパグリフロジンは、腎機能や血圧に悪影響は及ぼさなかった。
結論: エンパグリフロジンの急性心不全への効果は、VASスコア、利尿反応、NT-proBNPの変化、入院期間には効果がなかったが、安全性は認められ、入院中の心不全増悪や、60日以内の心不全再入院や死亡を減らした。
コメント:
動脈硬化性心血管病のハイリスク糖尿病患者群を対象とした、ENPE-REG OUTCOME、CANVAS、DEVCLARE TIMI58により、心血管死、心不全入院を含む複合エンドポイントがSGLT2阻害薬により減少することがあきらかにされた。さらに、リアルワールドの患者が対象となったCVD-REAL、CVD-REAL2から、SGLT2阻害薬は、動脈硬化ハイリスク患者ではなくても全死亡、心不全入院を減らすことが示され、人種差もないとも明らかになった。これらの効果はクラスイフェクトであると考えられている。
DAPA HFは、2型糖尿病合併の有無を問わない慢性心不全EF<40%未満、NYHA III/VI、proBNP600pg/ml(AF/AFLであれば900pg/ml以上)の患者へのダパグリフロジンの効果を
みた研究だが、左室駆出率が低下した心不全患者において,心不全の標準治療へのダパグリフロジンの追加は,糖尿病の有無にかかわらず、心不全の悪化および心血管死のリスクを減らし、心不全治療薬としてのSGLT2阻害薬可能性を強く示した。
このような背景の中、今回の急性心不全患者へ安全に、エンパグリフロジンを投与することができ(機能や血圧への悪影響なく)たことは、心不全を治療する際に、いつSGLT2阻害薬投与開始すべきかを考えるうえで非常に重要な研究である。
今回は、初発心不全を47%含んでいたことで、ACE阻害薬やβ遮断薬の投与状態がさまざまであり、proBNPの変化やVASスコアに差が見られなかったものの、治療経過の中で、エンパグリフロジン投与患者で亜急性期の心不全悪化がなく、より安定した心不全管理を可能にする可能性が示されている。
今後は、心機能低下患者だけではなく、心機能が保持された患者に対する効果も明らかにされてくるであろう。(EMPEROR HF-Reduced、EMPEROR HF-Preserved)