Dr’sメール 虚血性脳卒中後の神経機能減退におけるてんかん性活動;持続脳波研究
2020/02/19
安城厚生病院
脳神経内科代表部長
臨床検査科代表部長
川上 治先生
【虚血性脳卒中後の神経機能減退におけるてんかん性活動;持続脳波研究】
Clin Neurophysiol 2019; 130: 2282-2286.
Epileptic activity in neurological deterioration after ischemic stroke, a continuous EEG study.
P. Scoppettuolo et al.
背景: 虚血性脳卒中(ischemic stroke;以下IS)は、不可逆的神経障害の”core”とその周辺の可逆的障害の”penumbra”からなり、再灌流によりpenumbraを救うことで神経機能の回復が期待できる。一方、神経機能減退(neurological deterioration;以下ND)は、IS急性期の38%以上に見られ、その原因には出血性変化、浮腫、虚血の再発、全身性代謝的要因があるが、半数は原因不明とされている。一方、重篤な脳疾患で度々見られる周期性放電 (periodic discharge;以下PD)、non-convulsive seizure (以下NCS)、non-convulsive status epilepticus(以下NCSE)は、神経細胞の代謝増加を誘発し“代謝危機”状態となり、神経障害進行の悪循環となることが動物実験や臨床研究から明らかにされている。IS急性期でのてんかん性放電がNDと関連するかどうかを検討するため、持続脳波測定(continuous EEG monitoring;以下cEEG)をIS急性期でNDがみられた症例に施行した。
方法: Erasme病院(ベルギー)に2014年1月から2016年12月まで入院したND合併患者を対象にcEEGを施行した。NDの定義;1) NIHSS2点以上の悪化、2) GCS1点以上の意識障害進行、3) 新規病変によらない新たな神経徴候のいずれか1つも満たすもの。患者背景、TOAST分類による病型、てんかんの既往の有無、血栓溶解療法 or /and 血栓回収術の有無などを評価、mRS≦2を良好群とした。
結果: 1335例の急性期IS患者にcEEGを施行した。このうち81例(8%)がNDを呈した。70例(86%)は、IS発症3日以内にNDを認め、57例(70%)は内頚動脈領域、22例(27%)は主幹動脈病変、36例(45%)は心原性脳塞栓、1例 (1%) がラクナ、11例 (14%) は潜因性であった。23例で血栓溶解術、18例で血栓回収術、10例で両者が施行された。てんかん性異常は36/81 (44%) に認められた。その内訳は、EEGでNCS/NCSEと診断した例が10例 (12%)、PDが17例 (12%)、sporadic epileptic discharges (SEDs) が14例 (17%)、複数をもつ例があった。血行再建療法をした59例中にてんかん異常を呈した例は13/59 (22%)、未施行例17/22 (77%)と有意に少なかった (p<0.001)。血栓再開術未施行群でのNCS/NCSE群で8例に抗てんかん薬(AEDs) 投与したところ、7例(88%)でEEGでの発作パターンが改善した。PD群ではAEDsにより10/16 (62%) がPD消失した。急性期ISでNDを認めた例で44%と高率にてんかん性異常が認められ両者の関連が示唆された。しかし、AEDsによる治療反応性が認められたにもかかわらず、予後良好群はAED治療群と非治療群では有意差がなかった。これは少数例での検討が一因であったかもしれない。
結論: NCS/NCSE/PDでみられるてんかん性放電は、IS急性期におけるND症例に高率で認められたことから、てんかん性放電とIS急性期のNDとの関連の可能性が示唆された。
コメント: IS急性期のてんかん性発作は急性症候性発作として、IS慢性期に発症する脳梗塞後てんかんとは区別され、臨床的意義は軽視されてきて不明なことが多い。近年、SeLECT scoreにより急性症候性発作の有無が脳梗塞後てんかんを予想する重要な因子として注目されるようになった。本論文は、IS急性期の神経徴候の悪化がてんかん性放電との関連を示唆した点では重要である。重症ISの集中管理のひとつに持続脳波モニタリングが必要か?今後症例を重ねて検討しなければならない。