Dr’s メール経カテーテル又は外科的大動脈弁置換術における5年間の転帰の比較
2020/03/31
安城更生病院
第1診療部長 救命救急センター長 内科代表部長
循環器内科代表部長 院長補佐 竹本憲二先生
経カテーテル又は外科的大動脈弁置換術における5年間の転帰の比較
Five-Year Outcomes of Transcatheter or Surgical Aortic-Valve Replacement
R.R.Makkar and Others
N Engl J Med 799-809 2020 Feb 27
背景: 高度大動脈弁狭窄症で中等度の手術リスクの患者に対して、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)または外科的大動脈弁置換術(SAVR)を施行した場合の、長期的臨床データと生体弁機能を比較したデータは少ない。
方法: 症状のある高度大動脈弁狭窄症で手術リスクが中等度の患者 2,032 例を57施設から本研究に組み入れた。経大腿動脈アプローチか経胸腔アプローチかで患者を層別化した上で(それぞれ 76.3%と 23.7%)、TAVR を施行する群とSAVRを施行する群に無作為に割り付けた。臨床・心エコー・健康状態の転帰を 5 年間調査した。主要エンドポイントは全死亡または障害を伴う脳卒中であった。
結果: TAVR 群とSAVR群で、5 年時点での全死亡または障害を伴う脳卒中の発生率に有意差は認められなかった(それぞれ 47.9%と 43.4%,ハザード比 1.09,95% CI 0.95~1.25,P=0.21)。経大腿動脈アプローチの結果は同様であった(それぞれ 44.5%と 42.0%,ハザード比 1.02,95% CI 0.87~1.20)が、経胸腔アプローチでは,死亡または障害を伴う脳卒中の発生率は TAVR 後のほうがSAVR後よりも高かった(59.3% 対 48.3%,ハザード比 1.32,95% CI 1.02~1.71)。5 年の時点で軽度以上の弁周囲大動脈逆流が認められた患者は、TAVR 群のほうがSAVR群よりも多かった(33.3% 対 6.3%)。再入院は TAVR 後のほうがSAVR後よりも多く(33.3% 対 25.2%)、大動脈弁への再介入についても同様であった(3.2% 対 0.8%)。5 年時点での健康状態の改善は,TAVR 群とSAVR群とで同程度であった。
結論: 手術リスクが中等度の大動脈弁狭窄症患者において、TAVR 後5 年の時点での死亡または障害を伴う脳卒中の発生率は、TAVR後と比較して有意差は認められなかった。
コメント
本試験はPARTNER 2 Cohort A試験の5年後のデータである。PARTNER 2 Cohort A試験の追跡期間は2年であり、既に全死亡または障害を伴う脳卒中の発生率に有意差は認めらないという結論が出ていた。今回更に長期の追跡調査が公表され、5年経過後も両群間に差を認めないことが分かったのである。TAVR (日本では一般的にはTAVI) の適応拡大をさらに促進させる結果といえる。
気になるのは経胸腔アプローチの成績が悪いことである。しかし、現在は5年前とは異なり、経胸腔アプローチは極めて少ない手技となっている。本文中には「最近95%以上が経大腿アプローチで施行されている」とあるし、日本における実臨床でも同様の傾向にある。これはPARTNER 2 Cohort A試験がSAPIEN XTという第二世代の生体弁を用いた試験であったのに対して、最近では第三世代のSAPIEN 3が主流となっていることに起因する。TAVRのシステムの径が小さくなったために、経大腿動脈アプローチが当時よりも容易になっているのである。
また本試験ではTAVR群の問題点として、弁逆流の多さが示された。しかし、このことも現在の実臨床では問題にならない。現在使用されているSAPIEN 3には弁逆流を防止する形状的な工夫が施されており、治療一年後の弁逆流はSAPIEN 3を用いたTAVRではSAVRよりも優れているというデータが既に示されている。
現在よりも一世代古いデバイスであるにも関わらず、全死亡または障害を伴う脳卒中において、TAVRは5年間にわたり、SAVRと同等な良好な経過を示した。TAVRは新しい治療であるため、他の治療に比して治療システムの急速な進歩が見込める。大動脈弁疾患患者に対して、今後更に低侵襲で安全な治療が可能となっていくであろう。