Dr’sメール 眠前の降圧剤服用は心血管合併症発症を改善する
2019/11/08
医療法人 順秀会 副理事長
メデイカルパーク今池 院長
平山 治雄先生
眠前の降圧剤服用は心血管合併症発症を改善する
Bedtime hypertension treatment improves cardiovascular risk reduction:the Hygia Chronotherapy Trial. Eur Heart J.2019 Oct 22.online
【目的】Hygia Chronotherapy Trialは、臨床のプライマリーケアのあり方を確立する研究で、降圧薬の服用時間が眠前と従来とおりの起床時とで、どちらが心血管疾患の発症リスクの低下に有用性を発揮するか調べるために企画された。
【方法と結果】この多施設、比較、前向き研究では、19,0841名の高血圧患者(男性10,614名、女性8,470名、平均年齢60.5±13.7歳)が登録され、1日に服用する1剤以上の降圧薬を全て眠前に服用する群9,552名と起床時に全降圧薬を服用する群9,532名に1:1に割り付けられた。
試験開始時と追跡期間中少なくとも年に1回受診時にABPMを48時間記録した。中央値6.3年の追跡期間中に、1,752例が主要な心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、冠動脈血行再建療法、心不全、脳卒中)を発症した。
起床時服薬群よりも眠前服薬群では、年齢、性、2型糖尿病、慢性腎臓病、喫煙習慣、HDL-コレステロール値、CVDの既往、睡眠時平均収縮期血圧、睡眠中の相対的収縮期血圧などの因子を調整した主要心血管イベントのハザード比は有意に低かった。(HR 0.55、95%CI 0.5-0.61, P<0.001)
個々の心血管イベントのハザード比は、心血管死0.44(95%CI0.34-0.56)、心筋梗塞0.66(95%CI0.52-0.84)、冠動脈血行再建療法0.60(95%CI0.47-0.75),心不全0.58(95%CI0.49-0.7)、脳卒中0.51(95%CI0.41-0.63)であり、すべての心血管イベントにおいて著明なリスクの低下が確認された。
【結論】1日1剤以上の降圧薬を服用する高血圧患者が、起床後の服用をやめて眠前に服用する事が当たり前になれば、24時間の血圧コントロールは改善し、特に睡眠中の血圧の低下を増強し、睡眠時の相対的な血圧低下量を増加する。そして最も重要なことは、重篤な心血管イベントの発症を著明に減少させることである。
【解説】
WHOが高血圧を定義したのは1978年であるが、当時は降圧薬は降圧利尿薬(サイアザイド)、β遮断薬、ヒドララジン、レセルピン程度であった。その後多くの疫学研究が行われ、心血管イベントを減らすための至適血圧や至適降圧療法のエビデンスが蓄積され、また新しい降圧薬、カルシウムチャンネルブロッカー、α遮断薬、レニンアンギオテンシン系抑制薬、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬などが開発された。降圧薬の評価方法も変わり、降圧効果だけで無く、心血管イベントを有意に減らす薬が有用とされ、降圧を得られても、心血管イベントを増悪させる薬や心血管イベントを有意に減らす効果が証明されなかった薬は退場することになった。
しかし、これまでに薬の服薬時間に関するメガトライアルは実施されたことは無く、降圧薬は朝服用することが広く習慣的に当然のこととして行われてきた。
本研究は、従来の朝服用に根拠があるのか、服薬時間の違いにより心血管イベントに差が無いか、を確認するために行われたが、研究のきっかけは、以前行われたHygia Projectで夜間睡眠中の平均収縮期血圧が心血管イベントの最も重要でかつ独立した因子であることが証明されたことであった。このことから、眠前投薬で夜間睡眠中の平均収縮期血圧を下げることで心血管イベントを起床後服用よりも改善できるのではないか、との仮説が立てられ、今回のメガトライアルが企画、実施された。
その結果は予想以上に、降圧薬の眠前投与が起床後服用よりも大きく心血管イベントを減らすことが証明された。この結果は、実地医家の処方行動の変化を促す効果をもたらすと思われる。
一方本研究の限界も示しておきたい。本研究では、夜間血圧の変動(non-dipper type, riser type, dipper type, extreme dipper type)については言及していない。当然non-dipper typeとriser typeにこの研究は当てはまると思われるが、dipper typeとextreme dipper typeではadverse effectは生じないかが気になるところである。また、本研究では降圧薬の種類別の層別解析がされていない。CCBやRASIは眠前投薬で良いが、サイアザイドや類サイアザイドも眠前投薬されたのか是非知りたいところで有る。
また本研究から、降圧療法を開始する前にABPMで血圧プロフィールを把握することの必要性が示唆されたと思われる。