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Dr’sメール 二次性副甲状腺機能亢進症を有さない慢性維持血液透析患者の臨床アウトカムに対する・・・

2019/07/05

藤田医科大学医学部 腎臓内科学 臨床教授

稲熊 大城先生

Effect of Oral Alfacalcidol on Clinical Outcomes in Patients Without Secondary Hyperparathyroidism Receiving Maintenance Hemodialysis

The J-DAVID Randomized Clinical Trial

二次性副甲状腺機能亢進症を有さない慢性維持血液透析患者の臨床アウトカムに対する経口アルファカルシドールの効果 “J-DAVIDランダム臨床試験”

Shoji T, et al. JAMA. 2018;320(22):2325-2334. doi:10.1001/jama.2018.17749

Current impact factor = 47.661

【背景】

慢性腎臓病(CKD)患者は、主として腎でのビタミンD活性化障害により、著明な不足状態となっている。活性型ビタミンDの生理機能については、骨・カルシウム代謝以外に、左室肥大抑制ならびにインスリン抵抗性改善などの非古典的機能を併せ持っている。透析を含むCKD患者において、心血管病(CVD)の発症が多いことの一つの要因として、活性型ビタミンDレベルの低下が挙げられる。これまで、透析を含むCKD患者に対して、活性型ビタミン製剤の使用が、副甲状腺ホルモンレベルとは無関係に、低いCVD発症あるいは死亡に関連することを示した報告が散見される。しかしながら、これらのほとんどは観察研究であり、直接的な因果関係を証明するものではない。

本研究は、二次性副甲状腺機能亢進症のない慢性維持血液透析患者に対する経口活性型ビタミンD投与がCVDイベント発生率ならびに死亡率を減らすことが可能か否かを検討する目的で実施された。

【方法】

多施設共同無作為ランダムオープンラベルのデザインである。日本の207の透析施設で、慢性維持血液透析施行中の1289例を対象とした。最終的には976例が解析対象となった。対象患者をアルファカルシドール0.5mg/日投与群(介入群)と非投与群(対照群)との2群に分類した。主要評価項目は致死性あるいは非致死性のCVDイベントとした。CVDイベントは、心筋梗塞、入院を要する心不全、脳卒中、大動脈解離、大動脈瘤破裂、末梢閉塞性動脈疾患による下肢切断、心原性突然死、冠動脈インターベンションあるいは下肢動脈インターベンションとした。副次的評価項目は、総死亡などとした。

【結果】

976例中、964例の患者に対してITT解析が施行された(年齢中央値65歳、40%にあたる386例が女性)。フォロー期間中(中央値4年)、介入群488例中103例(21.1%)にイベントが発生した。一方、対照群476例中85例(17.9%)にイベントが発生し、両群間に有意差は認められなかった (95% CI−1.75 – 8.24]; ハザード比, 1.25 [95% CI0.94-1.67]P = 0.13)。総死亡に関しては、介入群18.2%、対照群16.8%の発生率であり、両群間に有意差は認められなかった(ハザード比1.12 [95% CI: 0.83-1.52]P = 0.46)。

【結論】

二次性副甲状腺機能亢進症を合併しない慢性維持血液透析患者に対する経口活性型ビタミンD製剤の使用は、致死性あるいは非致死性のCVDイベントの発生を減らさなかった。この結果は、従来施行されてきた経口活性型ビタミンD製剤の使用をサポートしなかった。

 

【コメント】

腎機能の低下にしたがい、腎における1a水酸化酵素活性の低下により、血清活性型ビタミンDレベル低下が引き起こされる。最近の研究では、活性型ビタミンDの前駆体である25ヒドロキシビタミンDの血清レベルもCKD患者では低下していることが示されている。つまり、ビタミンDステータスが不良であることがわかっている。活性型ビタミンDは核内受容体であるビタミンD受容体に結合し、生理活性を発揮するが、骨・カルシウム代謝に関連する副甲状腺細胞、腎尿細管上皮細胞、骨芽細胞、小腸上皮細胞以外、ほぼ全ての細胞に発現し、様々な生理機能を持っていることがわかってきた。そのような背景のもと、著明なビタミンD不足に陥っている透析患者に対し、活性型ビタミンD製剤を投与することで、CVD発生を抑制できるのではないかというクエスチョンを基に計画された研究である。残念ながら、上記の仮説を証明することはできなかったが、本研究は、あくまでも二次性副甲状腺機能亢進症を有さない(治療を要さない)維持透析患者に限定している。したがって、多くの割合を占める維持血液透析患者に対して、活性型ビタミンD製剤が有効ではないことを示すものではない。透析患者の著明なビタミンD欠乏、活性型ビタミンDレベルの低下は、非生理的な状況を引き起こしている可能性は高く、実臨床においては、使用されていることが多い。今後の研究結果が待たれる。

 

文責:藤田医科大学医学部・腎臓内科

稲熊大城