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Dr’sメール 高齢者が退院早期に再入院するリスク

2019/08/02

聖霊病院 内科

丹羽 統子先生

 

高齢者が退院早期に再入院するリスク

 

65歳以上の高齢者における退院後の転倒外傷と退院30日以内の再入院についての関連性

JAMA Netw Open. 2019 May24 Online first doi:10.1001/jamanetworkopen.2019.4276

Posthospital Fall Injuries and 30-Day Readmissions in Adults 65 Years and Older.

  1. Hoffman, H.Liu, NB. Alexander, et al

 

重要性:転倒は高齢者によくおこる現象であるが、特に転倒歴がある人、認知機能障害がある人、退院後に好発する。入院中の転倒や再入院を抑制することで病院は金銭的インセンティブが受けられるが1、転倒による外傷(fall-related injuries (FRIs))が退院30日以内の再入院の原因として一般的であるのかは不明である。

目的:再入院リスクの高い患者集団において、FRIsによる再入院と他の原因による再入院とを比較する。

研究デザインと対象:米国全国規模の病院費用と利用計画の再入院データベースを使用した後ろ向きコホート研究で2013年1月から2014年11月に退院した65歳以上のメディケア受給者を対象とした。退院30日以内の予期せぬ再入院の原因におけるFRIsの割合と順位に関して、対象全体と初回入院中に転倒外傷と認知機能障害の診断がされているコホートで調査した。また退院先(自宅、在宅医療、熟練者のいる介護施設)による違いも検討した。

結果:8,382,074件の入院が対象となり、うち746,397件(8.9%)が初回入院時にFRIと診断されており、1,367,759件(16.3%) が認知機能障害と診断されていた。平均年齢は77.7歳(標準偏差7.8歳)で4,736,281 件(56.3%) が女性であった。うち1,205,962件(14.4%) で再入院が確認され、転倒の既往があった者の再入院率は12.9%、認知機能障害のある患者の再入院率は16.0%であった。再入院全体ではFRIsは入院原因の3番目に多い診断名で60,954 (5.1%) 件あった。初回入院でFRIsの診断があったもの(全ての再入院診断名の10.3%)と認知機能障害が認められていた患者(全ての再入院診断名の7.0%)ではFRIは二番目に多い再入院の原因であった。初回入院にFRIの診断があり退院先が自宅もしくは在宅医療であったものに関してはFRIが主たる再入院の原因であった。

結論と関連性:退院後のFRIは再入院の主たる原因の一つであることが明らかになった。特に前回FRIで入院していたり、認知機能障害がみられた患者においてその傾向が強かった。リスクのある高齢入院患者、特に自宅や在宅医療に退院する患者に向けて対策を講じることは、再入院を減らし患者管理を改善させる可能性のある未着手の費用対効果の高い方策といえる。

※1 米国における再入院削減プログラム

 

コメント

地域医療を担う病院で診療をしていると高齢の入院患者は軽快退院しても早期に再入院となることが多いことに気づかされる。米国の調査によれば65歳以上の高齢者などを対象にした公的医療保険制度のメディケア加入者では約5人に1人が退院30日以内に再入院している。高齢患者にとって早期再入院は身体・認知機能を低下させ、社会的にも医療費の増大や医療の質の担保が問題となる。そのため米国では退院後30日以内に再入院してくる患者の比率が一定水準を超えている場合、その病院へのメディケアなどの支払い償還率が引き下げられる金銭的ペナルティー制度が導入されている。

本研究において早期再入院リスクの高い集団は転倒歴のある患者と認知機能障害者であること、そして転倒外傷が早期再入院の原因の一つであることが示された。初回入院が転倒外傷であった場合、高齢患者ではたとえ積極的に治療(手術等)されても機能回復は部分的にとどまることが多い。リハビリにも非常に時間がかかり、身体機能が低下した状態で日常生活に戻ることになるため再転倒のリスクは高い。熟練した介護施設に退院した患者では再入院リスクが低下する結果が示されていることから、移動能力に合わせた生活環境の整備や日常生活動作に即したリハビリを長期に渡って継続していくことは有効な介入であるのかもしれない。認知機能が障害されると自己の身体機能や空間に対する認識力が低下し、更に突発的に行動するため転倒事故につながりやすい。入院時には環境変化に適応できず行動・心理症状が誘発されて身体拘束の対象となることも多く、活動量が減るために身体能力が低下してしまう。施設や医療機関ではベット・その周囲にセンサーを設置し患者の動きを察知することによって転倒転落を未然に防ぐ努力をしているが、物理的に離れた場所でとっさに起こるイベントは防ぎきれるものではない。入院中に身体能力を落とさない取組みや、退院後の生活の場の環境整備、更に転倒転落時の傷害を軽減するための工夫も必要であろう。近未来的な発想であるが、着用することで体勢が保持されるパワーアシストスーツのようなものがあれば転倒転落時にも受傷を回避できるのではないかと夢想している。

 

 

聖霊病院 内科 丹羽統子