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Dr’sメール 心筋梗塞患者における低用量コルヒチンの有効性と安全性

2020/01/24

榊原記念病院
循環器内科 主任部長
七里 守先生

心筋梗塞患者における低用量コルヒチンの有効性と安全性
New England Journal of Medicine. 2019;381(26):2497-2505.
Efficacy and Safety of Low-Dose Colchicine after Myocardial Infarction
Tardif JC and et al.
背景:実験結果と臨床研究では動脈硬化とその合併症では炎症が重要な役割を担っていることが示されている。コルヒチンは、痛風や心膜炎に適応を有する経口抗炎症薬である。
方法:心筋梗塞発症30日以内の患者を対象として無作為化二重盲検試験が行われた。登録症例は無作為に低用量コルヒチン(1日1回0.5mg)かプラセボに割り付けられた。有効性のエンドポイントは心血管死、心停止に対する蘇生、心筋梗塞、脳卒中、冠血行再建を要する緊急入院である。有効性と安全性が評価された。
結果:4745例が登録され、2366例がコルヒチン、2379例がプラセボの投与を受けた。平均22.6か月追跡された。コルヒチンを投与された症例の5.5%、プラセボを投与された症例の7.1%に一次エンドポイントが生じた(ハザード比0.77、95% CI 0.61-0.96, P=0.02)。心血管死亡に対するハザード比は0.84(95% CI 0.46-1.52)、心停止に対する蘇生は0.83(95% CI 0.25-2.73)、心筋梗塞は0.9(95% CI 0.68-0.1.21)、脳卒中は0.26(95% CI 0.10-0.70)、冠血行再建を要する緊急入院は0.50(95% CI 0.31-0.81)であった。下痢がコルヒチンの9.7%、プラセボの8.9%に生じた(P=0.35)。重篤な有害事象として肺炎がコルヒチンの0.9%、プラセボの0.4%に報告された(P=0.03)
結語:心筋梗塞後早期の症例において、1日1回0.5mgのコルヒチンは虚血性心血管イベントを減少させた。

コメント
 分子生物学的手法による病態生理の進歩により、動脈硬化の進展に炎症が関与していることが明らかとなった。抗炎症薬による動脈硬化の抑制が期待されている。抗IL-1β薬であるcanakinumabが心血管イベントを減少させることが報告されたものの、コスト面と致死的感染症の増加を伴うことから、認可は見送られたままである。コルヒチンは古くから処方されてきた抗炎症薬である。循環器領域では心膜炎に対する抗炎症薬として処方されてきた。痛風発作の際に投与した経験をお持ちの内科医も多いであろう。本研究は急性心筋梗塞発症から平均13日後の症例を対象としている。急性心筋梗塞に対しては90%以上の症例に対して冠動脈形成術が施行されている。また、急性心筋梗塞後の標準治療であるアスピリンやスタチンが100%近い割合で投与されている。この点において、急性心筋梗塞後の血管病変に対する効果を明確にできる症例が選択されている。Canakinumab投与により感染症が増加したことから、本研究でも感染症に対する注意が払われている。コルヒチン投与により肺炎が増加している。これが偶然なのかコルヒチンの有する免疫抑制作用によるものなのかは今後も検討が必要であろう。減少したイベントの中心は、脳卒中と緊急を要する冠血行再建術である。急性心筋梗塞後数か月間は最も血管イベントリスクが高い時期であることから、20%余りのリスクリダクションは、コルヒチンという既に臨床使用されている薬剤により得られる効果であることと合わせ、患者にとって福音となるだろう。