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Dr’sメール 慢性腎臓病ステージ4の2型糖尿病患者におけるバルドキソロンメチルの尿中アルブミン排泄に対する影響

2020/01/09

藤田医科大学医学部・腎臓内科
稲熊 大城先生

Effect of bardoxolone methyl on the urine albuminto-creatinine ratio in patients with type 2 diabetes and stage 4 chronic kidney disease
慢性腎臓病ステージ4の2型糖尿病患者におけるバルドキソロンメチルの尿中アルブミン排泄に対する影響
Peter Rossing, et al. Kidney Int. (2019) 96, 1030–1036
Current impact factor = 8.306

【背景】
 バルドキソロンメチルはnuclear factor erythroid-derived 2-related factor 2(Nrf-2)を誘導し、またnuclear factor kB(Nf kB)を抑制することで炎症を制御する新たな薬剤である。2型糖尿病を有する慢性腎臓病(CKD)ステージ4の患者(2185例)を対象とし、腎機能の改善を検証した国際多施設共同プラセボ対照二重盲目比較試験であるBEACONトライアルは、実薬群で心不全発症が有意に多いことが確認され中断された。
 CKDに対して、以前から使用されてきたレニン・アンギオテンシン系(RAS)阻害薬あるいは最近使用頻度が高くなったSGLT2阻害薬は、GFRの低下速度を緩やかにこそすれ、改善させるところまでは困難であった。しかしながら、バルドキソロンメチルは、CKD患者のGFRを改善させる可能性を秘めた画期的な薬剤として期待されてきた。BEACONトライアルにおいて、心不全の発症に元々体液量過剰な患者あるいは尿タンパクの多い患者が多く含まれていたことがわかり、それらのリスクを持たない患者に限定した臨床治験が日本で実施されている。
 今回紹介する論文はBEACONトライアルのpost hoc解析で、バルドキソロンメチルの尿中アルブミン排泄に対する影響をプラセボと比較したものである。

【方法】
 国際多施設共同プラセボ対照二重盲目比較試験のデザインである。元のBEACONトライアルは、CKDステージ4の2型糖尿病患者を対象とし、2185例の患者が登録された。それらの患者はRAS抑制薬などの通常のCKD管理が施行されていたが、HbA1cが11.0%を超える場合、12週以内の心血管イベントがあった場合あるいはNYHAクラスⅢあるいはⅣの場合は除外された。BEACONトライアル自体の主要評価項目は、透析導入、腎移植、腎不全死亡あるいは心血管関連死亡の複合型として設定された。本試験は薬剤投与開始後の尿中アルブミン排泄の変化を主要評価項目としていた。投与期間は48週間で、この期間を12週毎に4期間に区切って評価した(Q1,2,3,4)。

【結果】
1.尿中アルブミン排泄の比較(本文中Table 1・Figure 1/2)
プラセボと比較し、バルドキソロンメチル群では尿中アルブミン排泄量が有意に増加した。ベースラインと比較して12週毎の平均尿中アルブミン排泄(mg/gクレアチニン)は、プラセボでは(Q1) 80→30、(Q2)234→193、(Q3)174→203、(Q4)100→227であったのに対し、バルドキソロンメチル群では、(Q1) 115→48、(Q2)216→251、(Q3)94→392、(Q4)56→304であり、明らかに尿中アルブミン排泄量は増加している。

2.GFRの比較(本文中Table 1・Figure 1/2)
バルドキソロンメチル群では、尿中アルブミン排泄量の増加に一致してGFRの増加が認められた。ベースラインと比較して12週毎の平均eGFR(ml/min/1.73m2)の変化は、プラセボでは(Q1) -1.4、(Q2) -0.7、(Q3) -1.6、(Q4) -1.2であったのに対し、バルドキソロンメチル群では、(Q1) 6.4、(Q2) 4.4、(Q3) 4.0、(Q4) 7.8であり、明らかにeGFRは増加している。

【コメント】
 CKDは全世界で増加の一途をたどっており、日本では約1,300万人、中国においては1億2,000万人もの患者がいるものと推定されている。その原因の一つに糖尿病の増加が挙げられる。問題なのは、CKDは改善が得られず、透析に至ったり、心血管イベントを発症したりして、時には命を落とすリスクがあるためである。そのような背景で登場したバルドキソロンメチルは、抗酸化作用ならびに抗炎症作用を有し、GFRを改善させるというこれまでにない薬剤である。残念ながら、今回取り上げたBEACONトライアルでは、心不全の発症が実薬群で多く、また今回のpost hoc解析でも尿アルブミン排泄を増加させることがわかり、手放しでは喜べない。しかしながら、本邦でBEACONトライアル以後に計画されたTSUBAKIトライアルでは、懸念された有害事象も有意に多いことはなく、また最大の関心事であるGFRに関しては、一部実測GFRを含め、改善が認められている。さらに海外では、遺伝性腎疾患の一つであるアルポート症候群への有効性を示すデータもあり、今後IgA腎症あるいは多発性嚢胞腎などへの応用も期待される。今後の臨床治験を含めたデータの結果が待たれる。

文責:藤田医科大学医学部・腎臓内科
稲熊大城