Dr’sメール FLT3遺伝子変異陽性の再発・治療抵抗性急性骨髄性白血病に対するギルテリチニブあるいは化学療法
2019/12/05
名古屋第二赤十字病院 血液・腫瘍内科
血液・腫瘍内科部長
内田 俊樹先生
FLT3遺伝子変異陽性の再発・治療抵抗性急性骨髄性白血病に対するギルテリチニブあるいは化学療法
Gilteritinib or Chemotherapy for Relapsed or Refractory FLT3-Mutated AML
Alexander EP, et al.
N Engl J Med 2019; 381: 1728-1740.
背景:FMS-likeチロシンキナーゼ3遺伝子(FLT3)変異を有する再発あるいは治療抵抗性の急性骨髄性白血病(AML)患者は、救援化学療法で反応が得られることは稀である。ギルテリチニブは、FLT3遺伝子変異陽性の再発・治療抵抗性AMLに単剤で活性を有する、経口の強力な選択的FLT3阻害薬である。
方法:第Ⅲ相試験において、FLT-3遺伝子変異陽性の再発・治療抵抗性成人AML患者を、ギルテリチニブ(120mg/日)あるいは救援化学療法のいずれかの治療を受けるために、2:1でランダムに割り付けた。Primary end pointは全生存期間と部分的な血液学回復例を含めた完全寛解率の2つである。Secondary end pointにはEFS(freedom from treatment failure(再発あるいは寛解未達成)あるいは死亡)と完全寛解率が含まれた。
結果:371例の適格患者のうち、247例はギルテリチニブ群に、124例は救援化学療法群にランダムに割り付けられた。生存期間中央値は、ギルテリチニブ群で化学療法群に比し有意に延長していた(9.3ヶ月 vs. 5.6ヶ月; 死亡に対するハザード比, 0.64; 95%信頼区間, 0.49 to 0.83; P<0.001)。EFS中央値はギルテリチニブ群2.8ヶ月、化学療法群0.7ヶ月であった(ハザード比0.79; 95% CI, 0.58 to 1.09)。部分的な血液学回復例を含めた完全寛解率はギルテリチニブ群で34.0%、化学療法群で15.3%であり(risk difference, 18.6 percentage points; 95% CI, 9.8 to 27.4)、完全寛解率はそれぞれ21.0%および10.5%であった(risk difference, 10.6 percentage points; 95% CI, 2.8 to 18.4)。治療期間により補正された解析において、グレード3以上の有害事象および重篤な有害事象は、化学療法群に比しギルテリチニブ群でより稀であった。ギルテリチニブ群における主なグレード3以上の有害事象は、発熱性好中球減少症(45.9%)、貧血(40.7%)、および血小板減少症(22.8%)であった。
結論: FLT-3遺伝子変異陽性の再発・治療抵抗性AML患者において、ギルテリチニブは救援化学療法に比し有意に生存期間を延長させ、より高い完全寛解率をもたらした。
コメント:
急性骨髄性白血病(AML)に対する標準療法である化学療法による寛解導入療法後に再発した、あるいは治療抵抗性である患者の予後は悲惨なものである。救援化学療法で再度寛解に入ったとしても多くは再発し、繰り返しの化学療法によりいずれ重篤な感染症などの致死的な合併症を来たし最期を迎える。根治が期待できるのは造血幹細胞移植に辿り着けた数少ない患者のみである。そして急性前骨髄球性白血病に対するベサノイドおよび亜ヒ酸を除き、古くからの抗がん剤多剤併用による化学療法以外に治療選択肢はなかった。
AMLの病態および疾患進行にはいくつもの遺伝子変異が関与していることが知られているが、FLT3を活性化させる遺伝子変異は最も高頻度に認められ、約30%の患者に認められる。FLT3は早期の造血幹細胞や前駆細胞に発現しており増殖や分化を制御しているサイトカイン受容体チロシンキナーゼである。そしてこのFLT3変異を有するAML患者は、予後不良であることが報告されている。
このランダム化第Ⅲ相試験では、経口の強力な選択的FLT3阻害薬であるギルテリチニブと従来の救援化学療法を再発・治療抵抗性AML患者において比較した。その結果、生存期間中央値および寛解率ともにギルテリチニブ群が良好であり、かつ有害事象はより稀であった。単剤での経口剤治療が多剤併用化学療法に勝ったわけである。
ギルテリチニブ(ゾスパタ®)はこのⅢ相試験の結果が報告される前に国内で承認され、2018年末より一般臨床でも使用が可能になっている。また同じFLT3阻害剤であるキザルチニブ(ヴァンフリタ®)が2019年10月も販売が開始された。FLT3阻害剤のミドスタウリンやヘッジホッグシグナル伝達経路阻害剤であるグラスデギブも国内で治験が進行中である。これらの新規薬剤は全て内服薬であり、現在AML治療は長く続いた多剤併用化学療法からの大きな変換点にきている。最高の有益性を得るために、初発症例、再発・治療抵抗性症例、移植症例など、どの時期にどの様にこれらの新規薬剤を取り入れていくか、現在検討が急速に進められている。
名古屋第二赤十字病院 血液・腫瘍内科 内田俊樹