Dr’sメール 再発・難治性多発性骨髄腫における抗BCMA CAR T療法bb2121
2019/06/20
名古屋第二赤十字病院
血液・腫瘍内科 部長
内田 俊樹先生
再発・難治性多発性骨髄腫における抗BCMA CAR T療法bb2121
Anti-BCMA CAR T-Cell Therapy bb2121 in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma
Raje N, et al.
N Engl J Med 2019;380: 1726-37.
背景:前臨床試験は、B細胞成熟抗原(BCMA)をターゲットとするキメラ抗原受容体(CAR)T細胞治療、bb2121が多発性骨髄腫治療の可能性を有することを示唆した。
方法:再発難治性の多発性骨髄腫患者を対象としたこの第Ⅰ相試験において、我々はbb2121を投与した。Dose-escalation phaseでは50 x106、150 x106、450 x106、800 x106個のCAR+T細胞が、またexpansion phaseでは。150 x106、450 x106個のCAR+T細胞が単独注入された。患者はプロテアソーム阻害剤や免疫調整薬を含む既治療歴が3ライン以上あり、両者に抵抗性の患者も含まれた。主要評価項目は安全性である。
結果:bb2121投与を受けた最初の連続した33例の結果を報告する。最終投与日からのdata-cutoff dateは6.2ヶ月であった。血液学的な影響が、最も多いグレード3以上のイベントであり、好中球減少症(85%)、白血球減少症(58%)、貧血(45%)、血小板減少症(45%)を含んでいた。25例(76%)の患者でサイトカイン放出症候群を認めた。グレード1/2は23例(70%)、グレード3は2例(6%)であった。神経学的な有害事象は14例(42%)に生じ、グレード1/2が13例(39%)であった。1例で可逆的なグレード4の神経学的有害事象を認めた。客観的奏効率は15例(45%)の完全奏効を含む85%であった。完全奏効が得られた15例中6例はその後再発した。無増悪生存期間中央値は11.8ヶ月であった(95%信頼区間6.2-17.8)。部分奏効以上の奏効が得られ、微小残存病変の評価が可能であった16例全例が微小残存病変陰性状態であった(有核細胞10-4以下)。CAR T細胞の増加は奏効と関連しており、CAR T細胞は輸注後1年まで継続して存在した。
結論:再発難治性多発性骨髄腫に対するBCMAに対する細胞免疫療法の初期の毒性プロファイルを報告した。抗腫瘍活性が確認された。
コメント:
形質細胞の腫瘍である多発性骨髄腫に対し、近年、プロテアソーム阻害剤、免疫調整薬、抗体薬などの新規薬剤が続々と開発され、患者の予後は著しく改善している。しかしながら、患者はいずれ再発し、これら新規薬剤に抵抗性となった後の予後は限られ、いまだ治癒できない疾患である。Chimeric antigen receptor (CAR) T細胞治療はいくつかの造血器腫瘍の長期疾患コントロールが可能な新規の治療法として近年開発されてきた。ごく最近、再発難治性CD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対し、CD19をターゲットとする初のCAR T細胞療法薬であるチサゲンレクルユーセル(キムリア®)が承認された。その高額な薬価(3349万円)と、内服薬や注射薬ではない細胞を扱う治療法ということで注目を浴びている。この論文では、形質細胞や一部の成熟B細胞上で発現しているtumor necrosis factor superfamilyに属するB細胞成熟抗原(BCMA)をターゲットとしたCAR T細胞治療第Ⅰ相試験の初期の結果が報告されている。CAR T細胞治療ではサイトカイン放出症候群や神経学的毒性が問題となることが知られているが、今回の研究では多くがグレード1/2でグレード3以上は少なく、管理が十分可能な結果である。一方、再発難治例にもかかわらず、85%という高い奏効率が示された。奏効は輸注後のCAR T細胞の増加と関連があり、最長で1年間患者体内に存在することも示された。
CAR T細胞療法は造血器疾患のみならず、他の固形癌に対しても急速に研究が進められている。また遺伝子導入により安価な酵素ベクター法を用いるCAR T細胞の開発や、iPS細胞を利用する方法なども進められている。がん治療は薬物療法、手術療法、放射線療法の3本柱で行われてきたが、オプジーボ®に代表される免疫療法が新たに参入し、さらにCAR T細胞療法も細胞免疫療法として今後急速に臨床の場に参入してくると思われる。10年後にはがん治療は大きく様変わりしているのではないだろうか。
名古屋第二赤十字病院 血液・腫瘍内科 内田俊樹
再発・難治性多発性骨髄腫における抗BCMA CAR T療法bb2121
Anti-BCMA CAR T-Cell Therapy bb2121 in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma
Raje N, et al.
N Engl J Med 2019;380: 1726-37.
背景:前臨床試験は、B細胞成熟抗原(BCMA)をターゲットとするキメラ抗原受容体(CAR)T細胞治療、bb2121が多発性骨髄腫治療の可能性を有することを示唆した。
方法:再発難治性の多発性骨髄腫患者を対象としたこの第Ⅰ相試験において、我々はbb2121を投与した。Dose-escalation phaseでは50 x106、150 x106、450 x106、800 x106個のCAR+T細胞が、またexpansion phaseでは。150 x106、450 x106個のCAR+T細胞が単独注入された。患者はプロテアソーム阻害剤や免疫調整薬を含む既治療歴が3ライン以上あり、両者に抵抗性の患者も含まれた。主要評価項目は安全性である。
結果:bb2121投与を受けた最初の連続した33例の結果を報告する。最終投与日からのdata-cutoff dateは6.2ヶ月であった。血液学的な影響が、最も多いグレード3以上のイベントであり、好中球減少症(85%)、白血球減少症(58%)、貧血(45%)、血小板減少症(45%)を含んでいた。25例(76%)の患者でサイトカイン放出症候群を認めた。グレード1/2は23例(70%)、グレード3は2例(6%)であった。神経学的な有害事象は14例(42%)に生じ、グレード1/2が13例(39%)であった。1例で可逆的なグレード4の神経学的有害事象を認めた。客観的奏効率は15例(45%)の完全奏効を含む85%であった。完全奏効が得られた15例中6例はその後再発した。無増悪生存期間中央値は11.8ヶ月であった(95%信頼区間6.2-17.8)。部分奏効以上の奏効が得られ、微小残存病変の評価が可能であった16例全例が微小残存病変陰性状態であった(有核細胞10-4以下)。CAR T細胞の増加は奏効と関連しており、CAR T細胞は輸注後1年まで継続して存在した。
結論:再発難治性多発性骨髄腫に対するBCMAに対する細胞免疫療法の初期の毒性プロファイルを報告した。抗腫瘍活性が確認された。
コメント:
形質細胞の腫瘍である多発性骨髄腫に対し、近年、プロテアソーム阻害剤、免疫調整薬、抗体薬などの新規薬剤が続々と開発され、患者の予後は著しく改善している。しかしながら、患者はいずれ再発し、これら新規薬剤に抵抗性となった後の予後は限られ、いまだ治癒できない疾患である。Chimeric antigen receptor (CAR) T細胞治療はいくつかの造血器腫瘍の長期疾患コントロールが可能な新規の治療法として近年開発されてきた。ごく最近、再発難治性CD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対し、CD19をターゲットとする初のCAR T細胞療法薬であるチサゲンレクルユーセル(キムリア®)が承認された。その高額な薬価(3349万円)と、内服薬や注射薬ではない細胞を扱う治療法ということで注目を浴びている。この論文では、形質細胞や一部の成熟B細胞上で発現しているtumor necrosis factor superfamilyに属するB細胞成熟抗原(BCMA)をターゲットとしたCAR T細胞治療第Ⅰ相試験の初期の結果が報告されている。CAR T細胞治療ではサイトカイン放出症候群や神経学的毒性が問題となることが知られているが、今回の研究では多くがグレード1/2でグレード3以上は少なく、管理が十分可能な結果である。一方、再発難治例にもかかわらず、85%という高い奏効率が示された。奏効は輸注後のCAR T細胞の増加と関連があり、最長で1年間患者体内に存在することも示された。
CAR T細胞療法は造血器疾患のみならず、他の固形癌に対しても急速に研究が進められている。また遺伝子導入により安価な酵素ベクター法を用いるCAR T細胞の開発や、iPS細胞を利用する方法なども進められている。がん治療は薬物療法、手術療法、放射線療法の3本柱で行われてきたが、オプジーボ®に代表される免疫療法が新たに参入し、さらにCAR T細胞療法も細胞免疫療法として今後急速に臨床の場に参入してくると思われる。10年後にはがん治療は大きく様変わりしているのではないだろうか。
名古屋第二赤十字病院 血液・腫瘍内科 内田俊樹